わんこそば食ってパンクする前に

 昔,「行き詰ったプロジェクトを立て直す」というテーマで取材したときに,ある大手システム・インテグレータで聞いた話だ。そのインテグレータで,火を噴いたあるプロジェクトをどうリカバリしたかというと,「外注先にものすごく生産性の高いプログラマがひとりいて,そいつをカンヅメにして,わんこそばのように仕様書を次々と渡して一気に作らせた」のだという。

はい、どこにでもある話ですね。でも、「そのわんこそばを何杯まで食うか」は常に考えていないとパンクしてしまいます。

元記事ではそのままアルファギークの話に入っていくので、なんだか現実味のない観念的な話で終わってしまっているのが非常に残念。恐らくこれを書いた記者は、この問題については他にもいろいろと言いたいことがあるんじゃないかと思うけど、無理矢理まとめに持って行ってしまったような印象。

もう少し現場の話として掘り下げると、こういった事態が起こってしまうのは、ある程度は仕方ないと思います。システム構築にしろサイト制作にしろ、仕事の内容が定量化できないものだし、無理だと思っていたことがある日突然当たり前にできるようになることもあるし。それだけ難しいとも言えるし、だから楽しいものでもある。


とは言え、わんこそばを何杯まで食うか、どこまでの火なら消すかという判断は常に現場の最前線に立つ者として意識していなければなりません。消防士だって燃えている建物に突入する前に、それこそ一刻を争う事態であっても「そこに飛び込むか」の判断はするはずです、多分。

そこに飛び込んだら確実に死んでしまう、あるいは重傷を負って戦線離脱してしまうような状況であれば、迷わず退くべきです。無茶な突入をして現場の戦力(自分自身)を欠いてしまう事態はチームの他のメンバーの負担を増やすこととなり、場合によっては更なるチーム戦力の低下を招き、最終的にはチームの崩壊すら招きかねません。消せない火事に対しては、消火活動を断念するという判断もまた大切なものであるはずです。そして、その判断は現場の最前線にいる者にしかできません。会議室で報告を待ってる偉い人には火の勢いは見えないのですよ。

また、そこで退くことが許されない環境であれば、自分自身の身を守ることを最優先するべきです。それはチームの他のメンバーの負担を増やすことに直結するケースがほとんどですが、それでも逃げるべきです。他のメンバーは皆それぞれに「自分も逃げる」というカードを持っています。処分しきれないわんこそばの山が見えたら、何よりもまず自信の安全確保に走りましょう。

特に家庭を持っている人間であれば、自分自身を守ることは家庭を守ることに直結しますから、とにかく「自分がつぶれないこと」が何よりも大切です。確かに嫁さん子供を食わせるには収入が必要です。でも、貴方がつぶれてしまえば遅かれ早かれその収入も途絶えてしまうのです。それに、貴方が日に日に消耗していく姿を見ている家族が本当に幸せになれるでしょうか? 貴方自身の消耗は家庭そのものの消耗です。

自分にはまだ子供がいないので、子供さんを育ててる人から「お前の考えは甘っちょろい」とお叱りを受ければ平謝りするしかありません。だが、書く。


それと、世のエンジニアは自分の市場価値を低く見過ぎる人がやっぱり多いように思います。純粋な技術論を語る場面であれば、常に上を見て謙虚な姿勢を心がけることは素晴らしいと思います。でもね、俗に言う「IT業界」にはまともにコードを書けないプログラマなんて本当に嫌になるほどゴロゴロしてるんですよ。そういう連中の給料と大して変わらない次元で、優秀なエンジニアが買い叩かれている現状はやっぱりいかんと思います。

わんこそばをもりもり食わされているような火消し部隊は、会社としても抜けられたら困る人材なはずです。そこが崩れれば盛大に燃え上がってしまうのですから。そういう立ち位置に幸か不幸か納まってしまった人は、会社に対してもっと強く出られるはずなんです。金銭的な待遇ももちろんですし、それ以外の面でもある程度のわがままを通していいはずです。そして、そこで会社との折り合いが付かなければ、その時は遠慮無く退却すればいいのです。もちろん、その火事場を乗り切ってから改めて決別というのがベストですが、本当にどうにもならない場合はしっぽを巻いて逃げればいい。そんな状況を招いたのは貴方一人が原因ではないのだから。


世の中これだけ炎上プロジェクトが当たり前なんだから、どこも火消しができる人材は欲しいはずです。その中に必ず貴方が消火に当たるべき現場があるはず。だからとにかく、自分は何者なのかを常に考えながら、その力を伸ばすことを最優先して走り続けるのが一番いいと思うよ。